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富山地方裁判所 昭和26年(行)6号 判決

原告 浜西栄作

被告 富山税務署長 外一名

一、主  文

原告の請求は孰れも之を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は、「被告富山税務署長が、富山県下新川郡加積村上村木百七十五番地訴外北陸鋳造株式会社に対する国税滞納処分として昭和二十五年八月二十一日富山地方法務局東岩瀬出張所登記受付参八九八号を以て差押えた別紙目録記載の土地に対して、昭和二十六年十月二十二日被告実正漣子を競落人として為した公売処分の無効であることを確認する。被告実正漣子は、同被告を権利者として昭和二十六年十月二十九日富山地方法務局東岩瀬出張所登記受付壱六四壱号を以て前項の土地について為した所有権移転登記の抹消登記手続を為さねばならない。訴訟費用は被告等の負担とする。」との判決を求め、その請求原因として別紙目録記載の土地は、元株式会社北陸製作所の所有であつたが、昭和二十一年二月八日原告に於て之を買受けたものであつて、その登記は同社社長石田由正が関係書類の交付を怠つた為直ちにその手続を為し得ないでいたが、原告は昭和二十二年二月十五日魚津税務署長に対し、右土地を原告所有財産の一部とする財産申告を為して受理され、昭和二十三年度からも引続き諸税金を負担してきたところ、訴外魚津税務署長は訴外北陸鋳造株式会社(右株式会社北陸製作所が昭和二十一年十二月二十七日商号変更をなしたもの)に対する昭和二十四年度滞納国税十九万余円の徴収のため、滞納処分として右土地を公売に付すべく前記原告の財産申告によつて之が原告の所有である事を確知しておりながら、敢て右滞納処分を被告富山税務署長に引継ぎ、同被告署長は昭和二十五年八月二十一日、富山地方法務局東岩瀬出張所登記受付参八九八号を以て右土地に付差押登記をしたので、原告は直ちに魚津税務署長に対して、その取消方を懇請すると共に同月三十一日前記売買に因る所有権移転登記手続を了し、更に再三被告署長に対し右差押の取消を求めて来たが、被告署長は右差押当時の登記簿上の権利者は訴外北陸鋳造であつて、原告の売買登記は右差押登記の後であるから、民法第百七十七条により原告は右売買を以て被告署長に対抗できないとの理由で之を肯入れず、遂に昭和二十六年十月二十二日被告実正漣子を競落人として右土地の公売処分を為し、同月二十九日富山地方法務局東岩瀬出張所登記受付壱六四壱号を以て被告実正を権利者とする所有権移転登記が為されたのである。

然し乍ら、民法第百七十七条は一般私法上における不動産の取引関係の安全を確保する為に第三者に対する対抗要件を規定したもの、即ち、本来対等の関係に立てる当事者間における私法上の取引関係についてその安全を確保せんが為の規定であるのに、国税滞納処分として行政庁が私人の財産を差押えて公売処分に付する行為は、国家が権力的支配関係において、その公権力を発動して財産所有者の意思如何に拘らず一方的に処分の効果を発生させるものであつて、私法上の取引関係とは全く異る法原理の上に立つものであるから、民法第百七十七条の適用はなきものと言うべく、行政庁は常に真実の所有者を標準として処分を為さねばならないものである。かゝる真実の所有者の探求には、或る程度の煩労さを避けられない事が予想されるけれども、行政処分の執行者たる者は全体の奉仕者として常に誠実公平に真実と正義の保持に努むべきであつて、煩雑の故を以て真実なる権利者の権利を無視するが如き事があつてはならないのである。

仮りに一歩譲つて行政庁の公権力による公売処分についても民法第百七十七条が適用されるものとしても、前述の如く被告署長は本件公売物件が原告の所有であつて、滞納者たる訴外北陸鋳造の所有財産ではない事を熟知していたのであるから、原告を権利者とするその所有権移転登記の欠缺を主張するにつき正当な利益を有する第三者に該当しないものと言うべきである。

然らば、本件被告署長の公売処分は滞納者に非ざる原告の財産たる土地に対して為されたものであつて、当然無効であり、従つて又それによつて、右土地の所有権に何ら変動を来さず、前記被告実正を権利者とする所有権移転登記も抹消されなければならないものである。よつて原告は被告実正に対して右登記抹消を求め、被告署長の右公売処分の無効確認を求めるため本訴に及んだのであると述べた(立証省略)。

被告富山税務署長指定代理人は、主文第一、二項同旨の判決を求め答弁として、原告の請求原因事実中、本件土地が元訴外株式会社北陸製作所の所有であり、同社は昭和二十一年十二月二十七日北陸鋳造株式会社と商号を変更したこと、被告署長が右会社に対する昭和二十四年度滞納国税等の徴収のための滞納処分を訴外魚津税務署長から引継ぎ、昭和二十五年八月二十一日原告主張の如く右土地を差押登記し、次いで昭和二十六年十月二十二日被告実正漣子を競落人として右土地の公売処分を為し、同月二十九日同被告を権利者とする原告主張の如き所有権移転登記が為されたこと、一方に於て、原告が昭和二十一年二月十五日魚津税務署長に対し右土地を自己の所有である旨の財産申告をなし、同署長に於て右申告に基き原告からその財産税を徴収したこと、昭和二十五年八月三十一日原告が右会社との売買に因る右土地の所有権移転登記を為したこと、そして原告が右売買を為したと称する昭和二十一年二月八日当時右会社の代表取締役が訴外石田由正であつたことは認めるが、右売買については不知、その余の事実は否認する。

仮に原告主張の如き売買があつたとしてもそれは同会社の重要な財産の売却であり、その定款に別段の定めのない業務執行であるから同社の取締役の過半数の決議によつて為すべきであるのに、何らその事なく、同社取締役石田由正が他の取締役に諮る事すらなく独断にて専行したものであるから無効である。この事は石田がその売却代金を同会社に納入した形跡のない事からも推認し得られる。

元来行政処分が無効であるという為には、その処分に内在する瑕疵が重大なる法規違反であるか、或いは瑕疵の存在が外観上明白なる場合に限るのであつて、本件公売処分は正当な権限を有する被告税務署長の部下職員がその権限に基き国税徴収法の規定に従い、訴外会社の昭和二十四年度の国税滞納処分として公簿上同社の所有名義である事明かな本件土地を差押え公売処分を為したものであつて、この処分自体に何等法規違反はなく、又外観上明白なる瑕疵も存在しないのであるから、法律上無効であるという事は出来ないし、且又仮りに右売買が有効であるとしても、原告がそれによる本件土地の所有権移転登記を了したのは前述の如く昭和二十五年八月三十一日であつて、被告署長が右土地を差押えた同年八月二十一日当時は原告は未だ右所有権移転を以て被告署長に対抗する事を得ないと言わなければならないから原告の請求は理由がなく排斥せられるべきである。

原告は滞納処分の如き国家の公権力による一方的処分には民法第百七十七条の規定の適用はない旨主張するが、同条項は不動産に関する物権変動について公示の原則を表明したものであつて、およそわが民法のように排他的効果を生ずる不動産に関する物権変動が当事者の意思表示その他外部から認識し得る表象を伴わないで行われる場合にあつては、私法の分野であると、公権力の発動たる行政法の分野であるとを問わず、この公示の原則が適用されるべきである。けだし、私人たると、公権力の発動としての行政処分の主体たるとを問わず、常に真実の権利関係を把握して、これに基いて私法上の法律行為をし、又は行政処分をする事は、殆ど不可能であるからである。若し行政法の分野において民法第百七十七条の適用がないものとすれば、例えば、自己の取得した権利について未だ登記をしない者はその権利を以て一私人には対抗できないが却つて公権力の主体たる国には対抗できるとの奇態な結果を生ずるし、或いは又不動産につき二重譲渡が行われ、ともに登記を経由していない場合には何人を所有者として行政処分をなすべきか収拾のつかぬ事にもなるであろう。

原告は被告署長が本件差押以前に前述の如き原告の財産申告等によつて本件土地が原告の所有であつて、訴外会社の財産でない事を熟知していたから、原告における登記の欠缺を主張するにつき正当な利益を有する第三者に該当しないと主張するが、財産税は各人の任意の申告に基き課税したものであつて、一定の期日に多量の申告を受け、その真否につき、一々実質的帰属に立入つて調査する事は殆んど不可能に近かつたので、専ら申告を基礎として課税せざるを得なかつたのである。従つて財産税を納付した故を以て必ずしも真正の所有者であると断言できないし、財産税申告者の申告を全部真実であると認定できなかつた実情にあつたのである。されば魚津税務署長が原告より財産税を徴収したのは、寧ろ原告の恣意による申告に基くものであり、本件土地が原告の所有であることを熟知した上に為したものではない。まして被告富山税務署長は登記簿上の記載の所有名義を信頼して差押、公売処分を為した事については何等過失がないのであるから、原告に対し登記の欠缺を主張する正当の利益を有する第三者であると言わねばならないと述べた(立証省略)。

被告実正の訴訟代理人は、主文第一、二項同旨の判決を求め、答弁として、被告税務署長と同旨の陳述を為した外、原告が主張する訴外会社との間の本件土地の売買は、原告と同社代表取締役石田由正とが通謀して為した虚偽の意思表示であるから無効であると述べた(立証省略)。

三、理  由

抑々違法な行政処分によつて損害を蒙つた者がその司法的救済を得ようとするには、右処分の取消を求める場合と、無効確認を求める場合とがあり、前者は行政事件訴訟特例法第二条により、一定の期間内に許される訴願、審査の請求等の行政救済手続を経る事を要し若し右期間内に之を怠れば最早出訴し得ないのに対し、後者は何らかゝる制限なく、いつでも出訴し得るものであるというべきところ、今若し、行政処分の違法を主張してその取消を裁判所に対して求めんとするも、既に右行政救済を求め得べき期間を経過したが為に、出訴し得ないので、その主張する行政処分の違法性の程度が、単に該処分を取消し得べきものであるに止まり、之を無効とする程のものでないことが明白であるのに拘らず、敢てその無効確認を求めて出訴する事は、明らかに右行政事件訴訟特例法第二条の趣旨に反するばかりでなく、之を許す事は徒に国家の裁判機関を煩わし、訴訟経済に背くもので、訴権の濫用とも言うべく、その不当なる事は言う迄もない。而して右行政処分の違法性の程度が、取消し得べき程度か、無効とすべきものか、その区別はかなり困難な問題であつて、簡単には決し得ないが、一応該処分に内在する瑕疵が重要なる法規違反であるか、又は外観上明白なる場合にのみ無効となるべく、瑕疵がこの程度に至らない場合は取消し得べき処分であると言い得べく、その何を以て重大若しくは明白なる瑕疵となすかは具体的に法規の意義目的作用を合理的に目的論的に解釈して決するの外はないのである。

而して本件において原告が国税徴収法に規定する再調査の請求又は審査の請求を経ていない事は同人の自認するところであるが、同人が、被告署長のなした本件土地の公売処分が無効なる事を主張する原因は、同被告において、原告が本件土地を訴外北陸鋳造株式会社から買受け、その所有として訴外魚津税務署長に対し財産申告をなし、同署長が之に基き原告から財産税を徴収した事を熟知しており乍ら、たゞ単に登記簿上は依然として右会社がその所有者であるということのみで、同会社に対する滞納処分として之を公売処分に付したという事に存するのであつて、かかる瑕疵は公売処分が国家の公権力によつて私人の財産を強制的に換価するという性質に徴し民法第百七十七条の適用を肯定するとしても事情により無効原因になり得ると考えられるので、原告の本訴請求は前述の如き名を無効確認に藉りて単に取消事由を主張するものと断じ去る事は出来ない。

よつて進んで原告の本案の請求について判断するのに、本件土地が元訴外株式会社北陸製作所の所有であり、同社は昭和二十一年十二月二十七日北陸鋳造株式会社と商号を変更したこと、原告が売買を為したと称する昭和二十一年二月八日当時同社の代表取締役が訴外石田由正であつた事は当事者間に争いのないところである。

そこで先ず、原告主張の如く右土地の売買が有効に成立したか否かの点について考えて見るのに、証人石田由正の証言によりその成立の真正なる事を認め得る甲第二、第三、第八号証、成立に争いのない甲第五号証の一乃至第六号証の一及二、証人石田由正、同大島三佐雄及同松本伊作の各証言によれば、本件土地は元、訴外会社の所有工場敷地であつたが、昭和二十年の終戦前、同工場は強制疎開のため撤去を命ぜられその使用不能となつたので、同会社は魚津駅前に工場を設けるに至つたが、終戦後同社は右工場改良費その他事業資金に充てる為右土地を売却すべく、昭和二十一年一月三十日と同年二月五日の二回に亘り、右土地譲渡の新聞広告をなしたところ、原告が訴外松本伊作を通じてその買受希望を表明してきたので、ここに同年二月八日、その外の田地や電話等と共に右土地を金七万八千円で原告へ売渡す契約が成立したことを認める事ができるのであつて、従つてその登記手続こそ遅れてはいたが、右土地は同社の資産としては右売買以後財産目録から除外されており、為にその後右石田由正を含めて同社の従来の取締役に代り、事実上同社の業務運営に当つていた訴外沢崎宗作及清河重次に於ても、又後述の大島三佐雄に代つて大株主として同社に支配的関係を有するに至つた福井友太郎に於ても、昭和二十四年頃富山市役所岩瀬支所から本件滞納税金とは別箇の関係の納税通知を受ける迄は、右土地が会社財産であつた事すら知らなかつた事実も証人石田由正、同福井友太郎、同清河重次及同大島長松の各証言中右同旨の供述部分によつて認められこの事実を以てしても右売買の真実性を証するに足る。

丙第四号証は右認定を覆すに足らず、その他之に反する証拠はない。

被告等は右売買は同社取締役の過半数の決議によらず、又外の取締役にはかる事もなく、代表取締役石田由正の独断で為されたもの故無効である旨主張するが、成程、右売買に関し同社取締役の決議を録取した書面その他右売買に関する書類が同社に全然存しない事は証人大島長松の証言によつて成立の真正なる事を認めうる乙第三号証、並に証人大島長松及同清河重次の各証言中右同旨の供述部分によつて認められるが、右売買当時外の取締役平岡精七、同佐賀徳太郎、同二上常太郎らは既にその所有の同社株券を全部訴外大島三佐雄に譲渡していて、実質的には右石田が殆んど単独で会社業務を執行せざるを得なかつた事情が証人平岡精七及石田由正の証言中右同旨の供述部分によつて明かであり、而して右証人石田及同松本の各証言によれば、右石田は同社の株券の大半を有するに至つた右大島と同社取締役訴外浜元重次郎の了承の下に右売買を為した事が認められるので、被告等の右主張は理由がないものと言うべく、証人平岡の証言中右供述を除く部分を以てしても右認定を覆すに足らずその他之に反する証拠はない。

被告実正の右売買は通謀虚偽表示なりとの主張は採用する余地がない。

然るところ、被告税務署長は、右会社に対する昭和二十四年度滞納国税等の徴収のための滞納処分を訴外魚津税務署長から引継ぎ、昭和二十五年八月二十一日富山地方法務局東岩瀬出張所登記受附参八九八号を以て右土地に付同月四日付の差押を登記するに至つたので、原告も急遽同月三十一日右売買による右土地の所有権移転登記手続を了したが、被告署長は昭和二十六年十月二十二日被告実正漣子を競落人として右土地の公売処分を為し、同月二十九日富山地方法務局東岩瀬出張所登記受附壱六四壱号を以て被告実正を権利者とする所有権移転登記が為された事は当事者間に争いがない。

よつて右差押並に公売処分の適否を審査するに、国税滞納処分として行政庁が私人の財産を差押えて公売処分に付する行為は、国家が権力的支配関係において、その公権力を発動して財産所有者の意思如何に拘らず、一方的に処分の効果を発生させるものであつて、私法上の取引関係と全く異る法原理の上に立つものであるから、民法第百七十七条の適用はないものという議論は一応考えられないわけではなく、同じく国家の公権力に依り不在地主若しくは大地主等からその所有農地を強制的に買上げるところの、かの自作農創設特別措置法に基ずく農地買収処分に関しては、最近の最高裁判所判例(昭和二十八年二月十八日言渡)によつて、民法第百七十七条の適用がないという事に確定しているところである。然し乍ら自作農創設特別措置法は、我国農地制度の急速な民主化を図り、耕作者の地位の安定、農業生産力の発展を期するため、公権力を以て所謂不在地主や大地主等の所有農地を買収し、之を耕作者に売渡すべき事を規定したものであつて、従つてその買収の基準も、いわゆる不在地主の農地であるかどうか、即ち農地の所有者が実際に農地の所在地に居住しているかどうか、或いは地主が農地を自作しているか、小作人をして小作させているか等、専ら所有者とその農地との間に存する現実の事実関係に依拠しているのに反し、税法事件の中でも国税滞納処分に於ては、あく迄滞納者とその財産との間の権利関係が基準となるのであつて、現実の事実関係の存否は何等要件ではなく滞納金額を支払えば処分を免れ得べくその他権利移転の態様等相違することが多いから一概に、右農地買収の場合と同視する事はできない。むしろ、滞納処分は租税債権という公法上の債権に基いて、納税義務者の財産を差押え、之を公売処分に付し、その代金を以て弁済に充当し、以てその強制的満足を得る点において、一般私法上の債務名義による強制執行の場合と近似するものというべく、従つて民法第百七十七条の適用を肯定するを妥当と解する。

原告は被告税務署長は本件土地が原告の所有であつて、滞納者たる右会社の所有財産ではない事を熟知していたのであるから、原告の所有権取得についてその登記の欠缺を主張するにつき正当な利益を有する第三者に該当しないと主張するが、成立に争いのない丙第一号証の一及二、第二号証の一及二、第五号証、証人荒井久秀、同森武夫、同土田豊二同、福井友太郎、同清河重次及同大島長松の各証言によれば、右会社は本件滞納国税のため、富山県下新川郡加積村上村木百七十五番地所在工場内の機械器具を差押えられていたが、前記認定の如く、昭和二十四年頃富山市役所岩瀬支所からの通知により、それ迄無視されていた右土地が始めて登記簿上同社の所有財産となつている事を知るに及び、右福井友太郎から魚津税務署の係員に対し、右機械器具に代つてこの土地を差押えられたき旨陳情したところ、同署長は部下職員をして一応調査せしめたが、同社から之が所有を確認する旨の書類(丙第一号証の一及二)の提出があつたので、之に対して滞納処分を執行すべく、その管轄庁たる被告署長に引継をなしたのである。而して被告署長は右引継に関する魚津税務署長名義の書類(丙第二号証の二)の備考欄に、一、所有者は前記滞納者名義、二、各土地について、昭和二十五年三月二十九日付の岩瀬支所よりの所有証明書提出ありとの記載あるに徴し、更に疑うことなく之を信頼して昭和二十五年八月二十一日右土地に付差押登記を為したのであつて、被告署長としては右土地が原告の所有に帰していた事は全然知らなかつた事を認める事ができる。

尤も原告が昭和二十一年二月十五日魚津税務署長に対し、右土地を自己の所有である旨の財産申告をなし、同署長が右申告に基いて原告から右土地に対する財産税を徴収した事実は当事者間に争いなく、然も右徴収は、右土地が登記簿上は右会社の所有である事を知つていて為した事も、被告署長に於て成立の真正なる事を認める甲第四号証の記載に照し明かである。然し乍ら右財産税徴収の頃と本件差押との間には数年の歳月があり、その間に魚津税務署に於て署長以下係職員に交代のあつた事も前記証人荒井久秀、同森武夫の各証言により認められ、甲第四号証の本件土地についての記載も只東岩瀬町の宅地とあるのみで、各土地の番地、坪数等は不明であるから、之を本件滞納処分の調査の参考資料とするには不十分であると考えられる上に、前記認定の如く本件差押えは、むしろ登記簿上の所有者たる右会社の陳情乃至希望に応じて為されたのであり又本件土地を原告に於て現実に利用して居つたことや右土地に付ての普通の税金を原告が納入したことは全立証に依るも認められないから、たとえ右の如き原告からの財産税徴収の事実があつても、その事実を以てして直ちに被告署長を以て原告の所有権取得について登記の欠缺を主張するにつき正当な利益を有する第三者に該当しないという事は出来ない。

然らば原告は右差押当時には右会社との売買による本件土地の所有権取得登記をなしていなかつたのであるから第三者たる右差押債権者被告署長に対してその所有権取得を対抗することは出来ず、被告署長が登記簿上右会社の所有であるところの右土地に対してなした差押は適法であり、斯る強制競売手続に於てはその差押登記ありたる当時の状態に於て進行すべきものであり本件公売処分は右差押登記ありたる当時の権利状態に於て為されたものであるから適法であつて該登記後に登記せられた原告の権利は競落人たる被告実正に対してその効力なきものである。

されば競落人たる被告実正を権利者として、昭和二十六年十月二十九日附富山地方法務局東岩瀬出張所登記受付壱六四壱号を以て為された右土地の所有権移転登記も亦有効であると言うべきである。

以上の通りであるから原告の本訴請求はいずれも失当として之を棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 渡辺門偉男 松田数馬 新田圭一)

(別紙目録省略)

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